北村薫『空飛ぶ馬』(6)

「それで、寂しくないのでしょうか」
「寂しいでしょう。そして、それを意識し始めたら余計寂しくなるでしょう」
「そのままでいいんですか」
「いい悪いということには答えようがありません。とにかく二人は寂しさに負けるほど−−」
円紫さんはしばらく沈黙した。そしていった。
「頭が悪くはないのでしょう」

噺家春桜亭円紫と女子大生の《私》が何気なく挑む、日常埋没系小謎解決譚。短編5つ。ひとが死なず、しゃれた会話があって、話が無駄に長くなく、それでいて見事な展開があって、読み終えたあとの余韻が格別。しかもシリーズもので先がまだあるッ! しっとり感だけでは終わらない。ああもう幸せだ。平成元年の本なので話中の女子大生像がかなり現代とは違うのだけど、そんなあたりもまあすてき。ミステリィ読みの友人の大プッシュを無視していたことの愚かさは、梅雨の側溝に払い流すとして、ブックオフ北村薫本を見つけたら即回収ー。