北村薫『覆面作家の愛の歌』(6)

「南条はさ、舞台じゃ、河合さんのことを思うように動かしたわけだよね」
外では、南条弘高が呼び捨てになっている。気に入らないところがあるのだろうか。
「そうですね」
「歩かせることも、寝かせることも、恋をさせることも、死なせることも、何でも出来たわけだよね」
「はい」
「自分が頭で思うことを、河合さんにさせられたわけだ。なあ。人の頭の中のことって、どこまで他人に向かって手を伸ばせるんだろう」

覆面作家》シリーズ第2作。短編3本。表題作が、何か、すげえ。シリーズ中の一番のガッツポーズ。