西澤保彦『解体諸因』(6)

「特にとりたてて変だとも思えませんが」変な方向に話が進んでいるなと思いながらも祐輔は腕組みをして首を傾げる。「どうだろう。藤岡さんはどうですか。ああいう類いの雑誌を見たことは?」
「あります。ありますけど、やはり男性のためのものだなと思いました。だって、また変な言い方になってしまいますけど、特に珍しいモノが写されてるわけでもないし」
「ま、そりゃそうですが」
「少なくともあたしにとっては、男性がああいう写真を見て性的に興奮できるというのは、とても奇異なことに思えます。良く言えば、男性って器用だなあ、と──」
「悪く言えば?」
「イマジネーションが貧困、といったところでしょうか」
「はあ……なるほど」
「あたしだけじゃないと思うんです。一般的に女性は、ああいう視覚メディアによって性的に興奮するようにはできていない」
「でも女性のためのポルノグラフィだってあるじゃないですか。ひと昔前、いわゆるソフト・コアが流行ったし、今もレディース・コミックとか──」
「あれは一応、自己投影が可能な物語があるから、まだ判ります。だけど男性は物語も何もない、ただのヌードを見ても性的に興奮できるわけで、そこが不思議だなあ、と」

短編9つ。かなり強引ながらもバラバラ殺人事件ばかりを揃えてあり(あ、殺人でないものもあるか)、最後には話同士が繋がる。こういう構造のミステリィは(全体で見ると)長めになるし、固有名詞も多くなるし、感想が「面白い」「壁投げ」の両極に寄りやすいのだけど、「面白い」側。事件自体のギャグっぽさが良い息抜きになっているのだろうか。探偵役(?)匠千暁の魅力は、まだ今一つよくわからないが、まあ、他のも読んでみましょうかね。