西澤保彦『子羊たちの聖夜』(5)

「――待ちなさいっ」
出ていこうとした僕たちを、和見がそう呼び止めた。怖かった。振り返って背後を見たロトの妻は、塩の柱となった――そんな旧約聖書の一節が、思い起こされる。
だが結局、振り向いた。タカチも僕も。
「あなたたち、何歳? まだ結婚なんか、していないんでしょ。子供なんかつくっていないんでしょ。親になった経験なんかないんでしょ?」
「ありません」タカチは即座に答える。「でも、子供になったことはあります」

匠千暁シリーズ第4作。タック・タカチ・ボアン先輩の出会いエピソードといい、タックとタカチの会話が多いことといい、シリーズファンにはおいしい一冊。強くて弱いタカチと、弱くて強いタック。今のところシリーズの中では最も楽しめた、かな。