北村薫『ターン』(3)

泉さんは、こういう顔をしていたのか、と思った。それは、すっと電話の声に重なった。
「会ってるじゃないか」
そういわれて、一瞬、震えた。泉さんは続けた。
「面と向かったって、会ってない人たちはいくらもいるよ」

時と人の3部作、第2作。交通事故以来どんな一日を過ごしても一日前に戻ってしまうひとの物語。たったひとつの電話からだけ通常の世界と繋がれる状況と、その意味。主人公の職である「版画」が何を意味するのか、色々考える。考えるほどに筆者の書こうとしているものがわからないが、話そのものは読ませる作りだなあと感心する。しかし結末の急転具合は、少しばかり残念。