加納朋子『魔法飛行』(6)

 瀬尾さんは捨てられた子猫を見るような、戸惑いと慈しみの込もった表情を私に向けた。
「どうしたんだい? 森で迷子になった、赤頭巾みたいだよ」
 瀬尾さんの口調は、相変わらず微笑を含んで穏やかだった。私は声が震えないように、つとめてゆっくりと、一語一語区切りながら答えた。
「本当に迷子になっているんです。どっちへ行ったらいいのか、わからないんです」
「森の外へ出たいの?」
「ええ。出なきゃ、いけないの。今、すぐに」
「じゃ、一緒に出よう」
 ごく自然な動作で、瀬尾さんは右手を差し出した。私はためらわなかった。差し出された手に掴まり、勢いをつけて立ち上がった。奇妙な気分だった。体が羽毛のように、軽かった。

《駒子》シリーズ?第2作。短編4本。創元な日常系ミステリィ。駒子が見つけた謎を瀬尾さんが手紙で解き明かすという前作『ななつのこ』のスタイルにプラスして、短編の間に挟まれる差出人不明の手紙3通。日常系ミステリィ短編が続いて最期の一編で覆される、というものはあまり珍しくないのだが、差出人不明の手紙で徐々に無気味感がつのってゆく仕掛けは、何ともすてき。ひとつひとつの謎とその解の面白さはそれほど大きくはないが、やはりトータルで見るとすてき。地味だけど良本。