加納朋子『掌の中の小鳥』(4)

 −−それこそ私の、得意中の得意。
 というのが、穂村紗英お得意のセリフのひとつである。もともと頭の回転がごく早く、運動神経も抜群にいい彼女のことだから、まず大概のことはそつなくこなすのも事実だ。だが、あまりにも頻繁にこの類いのセリフを聞かされる僕にしてみれば、
「……さだめし君の辞書には、謙虚だとか謙遜だとかいう言葉は載っていないんだろうね?」
 などと、ついつい皮肉めいた感想を口にしたくなる。対する紗英の返事がふるっていた。
「意外とわかってないのねえ」と心底不思議そうな顔をして見せ、きっぱりとこう断言するのだ。「はっきり言って、謙虚を語らせたら私の右に出るものはいないわよ」
 つくづく、紗英には参ってしまう。

バイタリティ溢れる女神とクールな聡明びとが語り合う、ちいさな、しかし作為的な、謎のおはなし。登場人物がわりと皆さばさばしているためか、ほんわかほんわかしすぎず、こういうのも良いなあと思った。北村薫本・森博嗣本・京極夏彦本につづき、最近は、加納朋子本が安心して買える柱の数に入りつつある。