鯨統一郎『九つの殺人メルヘン』(3)
「山内といいます。犯罪心理学の学者です」
山内が抜け目なく自己紹介を始めた。
「工藤です。神南署の刑事です」
成り行き上、僕も自己紹介をした。
マスターが気をつけの姿勢をとった。
「マスターです」
見りゃ判るよ。
工藤・山内・マスターの“厄年トリオ”のぐだぐだな会話に光を刺し、事件を童話に重ね合わせて推理する“アリバイ崩しの東子”こと桜川東子。ワイングラスで日本酒を飲み続け、短編9本。解かれるのはあくまでアリバイ工作のみで、事件解決の気持ち良いところだけを軽く読める良作、かな。東子の登場する『すべての美人は名探偵である』をもう一度読みたくなった。