米澤穂信『夏季限定トロピカルパフェ事件』(2)

「ご、ごめんね、下駄なんて履き慣れてないから、うまく蹴っ飛ばせなくて……」
「どんな靴なら人の向こう脛を蹴飛ばし慣れてると?」
 狐の面ごとかぶりを振って、
「あ、そういう意味じゃないの……。ごめんね、痛かった?」
 蹴られた瞬間は目から火花が飛んだけど、そんなにいつまでも痛がるほどのことじゃない。ぼくは足を下ろすと、笑顔を作った。
「そりゃあもう」
「そう……」
 小佐内さんは力なくうなだれ、
「でも、わたし、小鳩くんの言葉にとっても傷ついたの……。だから、許してくれるよね?」

《小市民》シリーズ第二作。小鳩くんと小佐内さんの、荒々しい狐と狼を隠してゆくための互恵関係。日常系ミステリィ連作短編集。すてきな甘さあり、見事な後味のわるさあり。続編が待ち遠しいシリーズもの。他の作品も読んでみようかしら。