三浦しをん『格闘する者に○』(2)

「谷沢も、今日こっちに来るなんて一言も言わないで。人が悪いよな」
 そんなのは前からだと思ったが、気になって尋ねた。
「なに、あんた谷沢さんとしょっちゅう連絡取り合ってるの?」
「ああ、メールでやり取りしてるんだ」
 いい年して文通か。ガックリきた。谷沢の過保護ぶりは可愛い娘を持った父親以上のものがある。

マイペースな主人公を襲う過酷な就職活動と家庭の事情。微笑ましい大学友人との会話から突然走り出せる文体。生協本屋でタイトルと装丁が気に入って下調べなしに買ったのだが、わりと当たり感。緩急つけた展開のうまさ。あとひとつ望むものがあるとすれば、ミステリィ要素くらいなもの(これだから日常系ミステリィ好きは)。