米澤穂信『愚者のエンドロール』(3)

 戸惑いを隠せないながらも、伊原が反論する。
「で、でも先輩。密室はどうなるんです。鍵がかかってたのは」
 何でもないことのように、沢木口はさらりと答える。
「別にいいじゃない、鍵くらい」
「……!」
「怪人なんだから壁抜けぐらいできないと。じゃなかったら、そうだ、きっと怨霊ネタなのよ。うん、そっちのほうがありそうね。オカルティックなのも悪くないわ」
 な、なるほど。
 ……なんという無欠の解答だろうか。俺はある種、感動さえ覚えた。この四日間俺たちの手を煩わせてきた問題、なかんずく密室の問題が、こんなに簡単に解かれるとは。「別にいいじゃない、鍵ぐらい」。至言だ。
 まだ伊原や千反田や里志が何か言っているようだが、俺はそんなことはもう訊いていない。沢木口説のあまりの見事さに魂を奪われていたからだ。
 別にいいじゃない、鍵ぐらい!

古典部》シリーズ2作目。文化祭の自主制作映画の解決編を推理で探り当てるおはなし。ひとつの問題に対しいくつもの推理をぶつけ続ける(そしてことごとく否定される)てう話の流れはおもしろいのだけど、薄っぺらい本のわりに退屈な時間が長く感じた。しかし終盤になり、女帝・入須冬実が現れて口を開くと、たちまちガッツポーズ。安易に女帝台詞萌えできてよい。