森絵都『宇宙のみなしご』(1)

「陽子、あんたあいかわらずかわいくない子だね」
「いいの、今はかわいくなくたって、わたしまだ若いから。無限の可能性あるから」
「好きなだけおっしゃい。そのかわりあんたにはイクラ、あげないよ。ひとつぶたりとも巻かせない」
「いいもん。タコとうめぼしの組みあわせのほうが好きだし、わたし」
「それもすべてはノリあっての話だってことを忘れてない? わたしがノリを没収したら、あんたはたまごやきひとつ巻けらんないんだから」
「そしたらぜんぶ混ぜあわせて、五目ずしにするまでよ」
 おたがい本気になりかけたところで、「腹へった」とリンがさけんだ。
「お願い、手巻きずしでも五目ずしでもいいから、早く食わせて。ぼくもう腹ぺこで死にそう」

森絵都本、初挑戦。フォントサイズや漢字かなづかい具合やルビの振り具合は、たしかに児童向け設定。しかし、過去を振り返って「ああ、こういう中学生でありたかった」と思いたい成人向けにも読める。何にせよ、低めだけど賢い目線の面白さ。筆者の狙い通りにこころあたためられてしまった。