森絵都『カラフル』(2)

「問題は、せっかくぼくがこの手でひろかをさらって逃げたのに、結局どこにもつれていけなかったってことだよ。ひろかと寝なかったのも、ひろかを追わなかったのも、ほんとはぼくがかしこいからじゃなくて、臆病者のせいなんだ」
 かすれた声をしぼりだすと、プラプラはぼくのせなかをさすりながら、
「そのかしこさや臆病さが君を救うんだ。第一、君はまだ十四歳で、だれかを救おうなんて考えるのは早すぎる。あっちにいこうとしてる人間をこっちにいかせるなんてこと、うちのボスにだってむずかしいんだぜ」
「あんたにもできないの? 今すぐひろかを家につれもどすこと」
「悪いが、おれは天使で、超能力者じゃない」
「あれ。じゃあ、超能力者のほうが天使よりすごいわけ?」
「よくわかんないけど、むにゃむにゃ」
 プラプラはあいまいに語尾をにごした。

話の流れは序盤から予測のつくベタベタなものなのに、森絵都ーっとしたやさしい文字列に負けそうになる。中盤から終盤にかけての波のある感動系押しに参る。地下鉄で読んでいたのだけど、もう少しで泣けるかも、と思った。