京極夏彦『邪魅の雫』(5)

「関口君もこれだけは心得ておき賜え。小説如きに己の主義主張や不特定多数に向けたメッセージを籠めるなんて行為は、海の水に食塩を入れて塩辛さを変えるようなもので、無意味この上ない馬鹿げた行為なんだ。それが届くと思うならそれは書き手の思い上がりだ。良いかね、呪術と云うものはね、呪術を信じていない者にしか正しく行使することが出来ないものなのだ。霊を怖がる霊能者は全部インチキだと云うのと一緒さ。霊なんていないと知る者こそが本物だ。言霊と云う方便は、言葉の無効性を熟知していない限りは成立し得ない方便なのだ」
 中禅寺がそう云った瞬間、ちりんと鈴が鳴るような音がした。
 この家は一年中風鈴が下げてあるのだ。

京極堂シリーズ何作目? 一ヶ月半ほど前からちまちまと読んでいたせいか、いまひとつ没入できなさ。面白いには面白いけど、講釈はびっくり感薄め。榎木津回だと聞いて喜んで読み始めたものの、弾ける役どころでもなく。ようやく次の本に移れるのと、鞄が軽くなるのがうれしい。京極本はもっと一気に読んで気持ちわるくなって作中人物と一緒に憑き物落とししてもらわんとな。