北村薫『朝霧』(/)

しかし、私は聞いてしまった。というよりは、何かが崩れて行く様を見た、といっていい。
無数の人が私の前を歩き、様々なことを教えてくれる。私は先を行く人を、敬し、愛したい。だが、人に知識を与え、経験を与える《時》は、同時に人を蝕むものでもあるのだろう。
辛い。

《円紫さんと私》シリーズ第5作。本屋を覗くたびに探すのだがなかなか見つからず、ふらりと寄った図書館で見つけ、一息に読む(ゆえに耳折りできず)。短編3本。《私》は大学を卒業し、社会人に。短編3本とも記録(何者かが読むことを想定して書かれた文字列)にまつわるもの、だろうか。同じく社会人となった正ちゃんとの会話は少なく、他のシリーズ作に比べると会話でにやにやするところがかなり少なくなり、ほのぼの感は大幅に削がれてしまったが、これまでの作とつながる出来事などが適度にあり、シリーズファンとしては充分に頬を弛められるのでは。とまれ、本屋で見つけて買わなければ。