西澤保彦『人格転移の殺人』(1)

「だから、どうしてたったそれだけのことで? デートの相手が他の女性に話しかけた、なんて些細なことで、どうしていちいち、殺意なんか燃やさなきゃいけないの?」
「表層的にはそれだけのことでも、深いところでいろいろと複雑な要因があったんだろうな。そのひとつはおそらく、きみの美貌だ。きみは余りにも美しすぎた」
「あら。ありがとう。こんな場違いな機会に、初めてそういうお世辞を言ってくれるのって、凄くあなたらしいわ」

複数人の肉体で人格が入れ替わり続け、そこで起こる殺人話。面白い会話はほとんどないのだが、西澤本らしいSFパズルミステリィ要素に追い付くだけで必死になる。序盤の「実体論」と「反応論」についての小話がもっと絡んでほしいところ(全体的にそれを背景に読むと面白いのだろうか)。人格がころころと入れ替わり続けるなかでの乱闘シーンは、清水義範あたりが書いたらすげえ笑えそうだなあと思った。